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「天国から来たチャンピオン」(1978) [Movie]


天国から来たチャンピオン [DVD]

天国から来たチャンピオン [DVD]




原題:Heave Can Wait
監督:ウォーレン・ベイティ、バック・ヘンリー
出演:ウォーレン・ベイティ、ジュリー・クリスティ、ジェームス・メイスン

1979年のアカデミー作品賞にもノミネートされた作品で、ファンも多い一本。なぜか観た事が無かったのでレンタルしたのですが、僕はあまり楽しめなかった。

天国のミスで寿命前に天に召されかけたアメリカンフットボールのスター選手・ジョー(ウォーレン・ビーティ)が、天使の計らいで再び地上に戻るものの、肉体は既に火葬で失われてしまい、やむを得ず妻と秘書に殺された富豪の身体に乗り移って、というお話。

ジョーが乗り移った富豪のファーンズワースは資力にまかせて、地域の自然や生活を破壊する事業を強引に進めていた男だったようで、ファーンズワースになったジョーはその行いを改めていくとともに、自然保護の活動家のベティと惹かれ合っていく。
筋立てとしては面白いのですが、死んだファーンズワースの悪辣っぷりが描かれないので、ジョーが乗り移った後の落差が生む面白さが伝わってこない。ジョーのキャラクターもワガママなスター選手の域を出ず、ほろ苦いラストに到るまで主人公が成長していく姿が感じられません。

ウォーレン・ビーティのスター性、ジュリー・クリスティの魅力、ジェームス・メイスンら脇役陣の堅実な演技に加え、デイヴ・グルーシンの音楽は秀逸だっただけに、なぜノレなかったのかは、自分の歳のせい?と思ってみたり。。。

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「手紙は憶えている」(2015) [Movie]





原題:Remember
監督:アトム・エゴヤン
出演:クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロホノフ

アウシュヴィッツの生き残りのユダヤ人によるナチ狩りの話、と言ってしまえばそれまでなんだけれど、それだけでは片づけられない哀しさと衝撃が詰まった作品。

認知症を患ったゼヴ(クリストファー・プラマー)がユダヤ人・マックス(マーティン・ランドー)の書いた手紙(メモ)を頼りに、アウシュヴィッツで家族を殺したナチス親衛隊を探し求めて旅に出ます。途中、何度も認知症で前後不覚に陥るゼヴですが、そのたびにマックスの手紙を読み返し正気を取り戻しながら旅を続け、遂にターゲットを発見しますが・・・

クリストファー・プラマーが素晴らしい。
認知症を患った老人の危なっかしさと正気な時の鋭さを巧みに演じ分けています。
シンプルで静な画面が続きますし、何より登場人物がほぼ全員高齢なので肉体的なアクションは極めて緩慢ですが、物語の運びと役者の演技でサスペンスフルな作品に仕上がっています。

おススメです。

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Sous Influences/Isabelle Antena [Rock & Pops]





1980年代にアントニオ・カルロス・ジョビンの「イパネマの娘」をカバーし「イパネマの少年」として発表して話題を呼んだアンテナ。ラウンジ系でお洒落な音楽は当時のハイセンスな人たちの間で話題になったが、間もなくユニットは解散。
解散後は中心メンバーのイザベル・ポワガのソロプロジェクト”イザベル・アンテナ”として活動を続けベルギーのクレプスキュールレーベルからアルバムを量産。1980年代後半から90年代前半は、シャーデーやエブリシング・バット・ザ・ガールといったアコースティックポップジャズ路線を往くアーティストとして人気を呼んだ。特に1987年に発表した「Hoping for Love」はアコースティックジャズボッサアルバムの決定版として未だに愛されているようだ。その後も多作ではないが定期的にアルバムを発表しており、アシッド・ジャズにアプローチしてみたり、様々な変化をしながら活動を続けている。

さて、本作は2014年の「French Riviera」以来3年ぶりのアルバム。
「French Riviera」は福富幸宏をはじめとする東京のクラブラウンジ系のクリエイターがゲストボーカルにアンテナを迎えて作った企画もののような趣きで、アンテナのオリジナルとは違うなというのが正直なところ。ということで、僕が知る範囲では2006年の「toujours du soleil」以来、11年ぶり?!のオリジナルアルバムになる(と思う。違っているかもしれません)。

で、肝心の本作「Sous Influences」ですが、80年代のアンテナワールドが還ってきたなというの第一印象。2006年の「toujours du soleil」の音の響きも80年代を彷彿とさせつつクラブサウンドの感触も割と残っていましたが、本作はよりアコースティックになっています。ジャズ、ボサノバ、フレンチポップのバランス良いブレンドが心地よく、昔の彼女のアルバムに親しんだ僕は嬉しくなってしまいます。ドライブにというよりは自宅で、カフェで雑誌でもパラパラとめくりながら聴きたい日常の音楽です。オススメ


French Riviera

French Riviera

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: GATE RECORDS
  • 発売日: 2006/09/20
  • メディア: CD



HOPING FOR LOVE

HOPING FOR LOVE

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: LES DISQUES DU CREPUSCULE
  • 発売日: 2013/05/20
  • メディア: CD



Toujours Du Soleil

Toujours Du Soleil

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Ltm / Boutique Nl
  • 発売日: 2006/05/02
  • メディア: CD



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「山の上ホテル物語」/常盤新平 著 [Book]


山の上ホテル物語 (白水uブックス)

山の上ホテル物語 (白水uブックス)




昭和30年代から50年代にかけて多くの人気作家が贔屓にした山の上ホテル
そのホテルを創業した吉田俊男氏について、吉田氏が育てたホテル従業員(のちに総支配人や副総支配人になる)3人への聞き取りを中心にその人物像を浮かび上がらせる構成になっています。
雑誌クレジットカードの会員誌)への連載を1冊にまとめたものなので、同じ話が何度も出てくる事も多く、繰り言のように感じてしまうのはその成り立ちから仕方がないと思います。

『もし、人が他人に与へられる最高のものが誠意と真実であるなら、ホテルがお客様に差し上げられるものもそれ以外にないはずだと思います』

ホテルの良さが究極的には人に行きつくことは、ホテル経営をしている者であれば誰しも口をそろえると思うけれど、それを地で行ったのが山の上ホテルなのでしょう。
神田に近いという立地もあるでしょうが、それだけでは色々と難しい人が多い作家に愛される訳はない。近いようで遠く、遠いようで近いという上手な距離の取り方が出来るホテルだったのだと思います。
客室数が200や300になって1日の宿泊者が400~500名といった中規模から大規模ホテルになるとそれは難しいでしょうが、本館別館併せて74室(今は本館の35室のみの営業らしい)という小規模ホテルであれば、その日の宿泊者の顔は何となく覚えられる。この規模感が、山の上ホテルを伝説のホテルにした要因の一つだと思います。

創業者の吉田氏は立志伝中の人ですが、独特の感性を持っていた人だったようです。
職人を好んだことから自身も気質は職人的だったのでしょうが、プレイヤーというよりもプロデューサーあるいはオーガナイザーとして才を発揮するタイプだったのでしょう。現代ではパワハラと一刀両断されるようなことも平気でやったでしょうが、一方で細かな気遣いもサッとできる。戦後のモーレツ時代にはこんな経営者はたくさん居たと思いますが、人間としてはいびつでも大変魅力のある人物だったのでしょう。

吉田氏はコピーライターとしても才があり、雑誌などの広告のキャッチは常に吉田氏が考えていたそうです。

『好きな旅館にはふるさとのなつかしさがある。ホテルはサッパリした後味をのこす。両方の良さを生かせば、日本のホテルが出来るでせう』

観光立国を目指す日本のホテル/観光業界が目指しているのはここなんだと思うけれど、吉田氏は60年も前に既にそのことに気づいていた、いや他にも気づいていた人は居たでしょうが、愚直にやろうとしたのが吉田氏だったという事なのかもしれません。
残念ながら、僕は山の上ホテルに泊まった事は無いので、今のホテルが吉田氏の想いをどれだけ引き継げているかは分からないですが、華美ではなくても清潔できちんとしていて、少しクラシックな佇まいを留めているのであれば、逆にまったくイマドキなホテルだと思うし、一度、泊まってみたいなと思います。

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「ラ・ラ・ランド」(2016年) [Movie]

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原題:La La Land
監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴスリング、エマ・ストーン

ロードショーで観たかったのですが時間が許さず名画座でようやく鑑賞と相成りました。

冒頭の「CINEMASCOPE」のロゴがモノクロからカラー、4:3から16:9に変遷した映画の歴史を演出していて、この映画がハリウッドで過去に作られた数多の映画へのオマージュであることを物語ります。恋愛ものの王道であり、バックステージものであり、ミュージカルであり、ジャズ、ロスの街、ハリウッドへの愛を謳う作品でもありといった感じで、極彩色で彩られた大変華やかな作品です。
主人公2人の恋愛が決定的になるのがフィルム上映の名画座だったり、その名画座の閉館と2人の関係の変化をリンクして描いていたりと、映画が生活と恋愛の中心にあった時代を思い起こさせる仕掛けがいろいろとあって、監督の映画に対する愛情の強さを感じさせます。

絶賛された冒頭のハイウェイでのミュージカルシーンから物語への導入は、1950年代のアメリカ映画黄金期を思わせる展開。実際は数カットに分かれていましたが、ほぼワンカットに見えるこの冒頭のミュージカルシーンは掴みとしては最高でした。冬春夏秋冬と季節とシンクロしながら2人の物語が展開するところもクラシカルで分かりやすく、映画が好きな多くの人たちは、ある意味安心しながら2人の行く末を見守るような気分になったんじゃないでしょうか?

映像、構成、色の演出、小道具、音楽の使い方のすべてがハイレベル。主人公が交わす会話もいいし、おおよそ疵らしい疵のない映画かなと。
ラストも秀逸で、男としてはホロ苦いラストだけど、そのために2時間使って伏線を張られていたことが分かる天晴れな演出だったと思います。

あえて言えば、現代でなければ作れない映画か?といえばそうではなく、その点がアカデミー作品賞の本命と言われつつ受賞を逃した要因じゃないかな?ただ、逆に言えばタイムレスにいつみても古くならない映画でしょうし、それだけのポテンシャルのある作品だと思いました。





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「あなたの人生の物語」/テッド・チャン著 [Book]


あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)




6月に鑑賞した「メッセージ」の原作で表題作「あなたの人生の物語」を含むテッド・チャンの短篇集。
カテゴライズすればSFになるのだろうが、人間の自己認識や世界認識、不可知なものに対する向き合い方といったテーマを通じて「人間が人間を超えていく」8つの物語で、世の中の切り口を変えてみた時の面白さがそれぞれにあります。

表題作も面白かったけれど、個人的には「地獄とは神の不在なり」と題された一篇が大変面白かった。
天使降臨が伝説ではなく実際に起きる世界で、降臨の際にもたらされる災害で命を失ったり、障碍が残ってしまったりする。不条理ともいえる神の行いで振り回される地上の人間はなおも信仰を持ち続けるのかどうか?そもそも信仰とは何なのか?といったことを考えさせられる。

ラストの「顔の美醜について」も興味深かった。
人は見た目で判断されるし、顔立ちの整った人が得をするのは世の常がだけれど、そのような美醜での差別を無くそうとするとどうなるか?ということを、色々な登場人物がそれぞれの立場から物申すという構成。

作者が膨大な知識(と思考)を駆使して書いていることが良く分かり、難解に感ずる部分も少なからずあります。表題作の映画化はとても上手にハリウッド娯楽作に仕立て上げたな と思う反面、原作を読んだ後だとそのハリウッド的な部分が鼻についてしまうかも と思ってしまいました。

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水出しコーヒー(2) [Lifestyle]

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ひと月ほど前に水出しコーヒーの話をしたけれど、ガラスサーバーが無いので水出しコーヒーパックはパントリーに入ったところで終わっていた。特に続篇を望む声がある訳でもないけれど、その後のお話を。

前回はガラスのサーバーについて「スーパーやホームセンターで売っているようなもので誤魔化したくもない」などと語りつつ、神戸に最近オープンした東京インテリアに足を運んだ際に安売りのお手頃なサーバーを売っていたので、貧乏人の僕は目が眩みあっという間にカゴに入れて購入。帰ってから早速「水出しコーヒー」を試してみた。

吃驚するほど作るのは簡単。1リットルの水に1パックを浸して6時間ほど放置しておくだけ。
出来上がったものを早速飲むと口をしばるような苦味や酸味も無く、珈琲のいいとこ取りをしているような感じだ。水にこだわったりすればもっと美味しくなるのかもしれないけれど、蛇口一体型浄水器の水でも十分。もちろんただの水道水でも美味しいと思う。

ということで、それから立て続けに作って飲んでいるが、パックは一袋で5パック入りだったのでそろそろ在庫が無くなりそうだ。KALDIでもおなじような水出しコーヒー用パックを売っていたので比較してみようかと思うが、こっちは猫の絵がいいんだよね・・・味には関係ない気もするんだけどパックって意外に心に届く味には影響しそうな気もする。

ということで、つづきは思い出した時にでも。

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「ベイビー・ドライバー」(2017年) [Movie]

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原題:Baby Driver
監督:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、リリー・ジェイムズ、ジェイミー・フォックス他

音楽が主役の映画の代表格といえばミュージカルなのだろうけれど、この「ベイビー・ドライバー」はミュージカル以上に音楽が主役の映画。「ショーン・オブ・ザ・デッド」、「ホットファズ」といった傑作をモノにしてきたエドガー・ライト監督は何千曲もの音楽を携帯できる現代で生活を彩るサウンドトラックを主役にした映画を創り上げた。

主人公のベイビー(アンセル・エルゴート)は、子供の頃の事故で常に耳鳴りがするのでそれを打ち消すために始終iPodで音楽を聴き続けていて、観客はベイビーが聴いている楽曲を全編に亘って一緒に聴いているという趣向。ベイビーは銀行強盗を逃がしてやる"Getaway Driver"を稼業にしていて、その運転の腕前は他の追随を許さないけれど、ポパイにほうれん草が必要なように音楽を聴かないと調子が出ない。運転の時はハイになれる曲が必要で、iPodを始終いじり選曲をしてから発進する。そして映像はベイビーの選曲にあわせてリズムを変えていくんだけど、このシンクロ感がとても気持ちいい。

見せ場はカーチェイスで、とにかく派手でキレもいいし、それが60年代、70年代のロックやファンクとシンクロするから音楽が好きな人には堪らない。僕はまさにそのクチなので、十二分に楽しみました。
俳優陣も適材適所。ベイビー役のアンセル・エルゴートがなかなかの存在感。ケヴィン・スペイシーは相変わらずの無表情演技ですけど、ある意味歌舞伎の域かな?ジェイミー・フォックスは余裕の演技でしたね。

ということでエドガー・ライト監督作品としては「ホット・ファズ」と並び立つ傑作だと思います。できれば劇場で大音量&大画面での鑑賞をオススメします。


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A Change of Heart / David Sanborn [David Sanborn]

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1987年に発表されたデヴィッド・サンボーンの最大のヒット作。
僕がサンボーンのファンになったのは1984年のライブアルバム"Straight to the Heart"からだけれど、超の付くファンになったのはこの"A Change of Heart"がきっかけ。翌年の88年に"Live Under the Sky"で初のライブを見たときの感動は未だに忘れることが出来ない。

『待ち焦がれたぬくもり。ニューヨークの街が聴こえる。』

アルバムのスリーブにあるキャッチコピーはいかにもな80年代風ですが的を射ていて、1曲目の"Chicago Song"からノックアウト。一つの捨て曲も無くラストの"The Dream"で大団円。ライブでも定番となったこの2曲はもちろんのこと、それ以外の収録曲でもひたすら気持ちいいポップフュージョンサウンド。サンボーンの唯一無二のアルトの音色が聴き手の心を掴んで離しません。
サンボーン史的に見れば、83年の発表された"Backstreet"と同じくマイケル・コリーナ、レイ・バーダニそしてマーカス・ミラーというお馴染みの布陣でR&B路線を深化させる一方、フィリップ・セス、ロニー・フォスター、マイケル・センベロといったポップ寄りの人脈も迎え、かつてないバラエティに富んだアルバムになり、サンボーン主演のサウンドアンソロジーの趣きも感じます。
今からすると、オーバープロデュース気味で隙間のない80年代特有のシンセサウンドなど古さを感じるところもありますが、ここでのサンボーンの自信に溢れるスタープレイヤーぶりは他のアルバムとはひと味違う魅力があります。

リリース当時は、音楽媒体がレコードからCDに移り変わる時期だったので、僕はCDでこのアルバムを購入。レコードは「終わるメディア」と認識していたので手を出しませんでした。
最近、にわか(かどうか分からないけれど)レコードブームで中古レコード市場も活気づいているのか、色々な店で中古レコードを取り扱うようになっています。そんな店の一つにふと足を運んだ折にこのアルバムのアナログを見つけたので即購入。残念ながらサンボーンのアルバムはヴィンテージ的な価値は無いようで、価格も500円程度と大変リーズナブルに手に入れることが出来ました。

アナログと聴き比べても特に何が変わる訳でもない(それほどのシステムを持っていない)のですが、レコードジャケットの大きさというのはやはりとても魅力的ですね。
マチスの「Jazz」のようなデザインの真ん中にサンボーンの自信たっぷりな笑顔がドン!部屋にディスプレイしても存在感抜群です。

今のアルトサックスシーンでサンボーンの影響を受けていない人は居ないのではないかというくらい、彼はサックスによるポップサウンドを変えたといっても過言ではないと思います。そんなサンボーンの80年代を総括する歴史的にも価値がある名盤と思います。



チェンジ・オブ・ハート<FUSION 1000>

チェンジ・オブ・ハート<FUSION 1000>

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2014/11/12
  • メディア: CD



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「遠い朝の本たち」/須賀敦子 著 [Book]


遠い朝の本たち (ちくま文庫)

遠い朝の本たち (ちくま文庫)




『文章のもつすべての次元を、ほとんど肉体の一部としてからだのなかにそのまま取り入れてしまうということと、文章が提示する意味を知的に理解することは、たぶんおなじではないのだ。幼いときの読書が私には、ものを食べるのと似ているように思えることがある。多くの側面を理解できないままではあったけれど、アンの文章はあの時の私の肉体の一部になった。いや、そういうことにならない読書は、やっぱり根本的に不毛だといっていいのかもしれない』(「葦のなかの声」より抜粋)

須賀敦子の最後の散文集。
親友の死にまつわる話から始まり、最後はその親友との思い出で結ばれているという形式もさることながら、この本に溢れる過去を慈しむ眼差しを感じれば、この時の著者が自分の最期を意識していることが分かる。思い出が本の記憶を呼び、本の記憶がまた思い出を呼ぶように、著者が少女だった戦中から戦後にかけての身の回りで起きた事を瑞々しく綴っていく。

恵まれた環境に育った人だと思う。
芦屋、夙川という自然と文化的生活が程よく調和した日本でも屈指の高級住宅街に住み、父親は文学に造詣が深く、家の中には本を読む環境が整っていた。もちろん、戦中から戦後にかけての欠乏の時代であるから、今からすれば「整っている」とは言い難いものかもしれないが、ほとんどモノが手に入らないからこその渇望が生むものもあるだろう。20代でパリに留学し、その後、再度イタリアに留学。そこで知り合った男性と結婚し(残念ながら早くに死別してしまう訳だが)、職業は翻訳家兼大学講師と、昭和の日本人が憧れるライフスタイルを生きた人だが、彼女も誰しもと同じように、どう生きるかに煩悶した。親友との思い出が綴られれる終章の「赤い表紙の小さな本」で、親友からの言葉が紹介されている。

『個性を失ふという事は、何を失ふのにも増して淋しいもの。今のままのあなたで!』

これからの人生に思いを馳せ、親友とそれぞれの想いを分かち合った日々の思い出。この言葉、そして親友の存在が、周囲からは「変わっている」と言われ続けた自分の生き方を支えてくれたと須賀敦子は語る。

『大切なのは、どこかを指して行くことなので、到着することではないのだ。というのも、死、以外に到着というものはあり得ないのだから』

本書で引用されたサンテグジュペリの言葉だが、これは本書を書いた彼女の言葉でもあったのだろう。

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