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「音の糸」/堀江敏幸 著 [Book]


音の糸

音の糸

  • 作者: 堀江 敏幸
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2017/01/26
  • メディア: 単行本



音、音楽には記憶を喚起させる力がある。
とりわけ若い頃、それも多感な中学や高校の時代に聴いた音楽となれば尚更である。
本書は小説家でクラシック音楽の愛好家でもある堀江敏幸氏による、音の糸を頼りに過去の記憶を手繰り寄せる50編のエッセイ集だ。

ベースになっているのは小学館の「クラシックプレミアム」に連載されていたものだけに、クラシック音楽にある程度精通した人が読み手として想定されている。
残念ながらクラシックは3Bとか、モーツァルト、チャイコフスキーくらいを繰り返し聞く程度で、指揮者といえばカラヤン、ミュンシュ、バーンスタインくらいしか浮かばないクラシックの世界には指先さえも入っていない私には、出てくる人名や曲名の多くが馴染がなく、入り込めないところがあった。
でも、例えば中学校の音楽室でレコードを聴かせてもらったり、地元のレコード屋でレコードをジャケット買いしてみたり、、、といった思い出には共感できるところも多く、自分の記憶と重ね合せながら楽しく読むことが出来た。

やはり吉田秀和氏との思い出を綴った4編が素晴らしい。
吉田氏といえば日本のクラシック音楽評論の草分け的な存在の重鎮。その吉田氏とレストランで食事をした時に吉田氏が『ぼくは音楽が嫌いだから』と店員にBGMを切らせたエピソードなど、活き活きとした筆致は、冷静で淡々とした味わいの多い著者の文章の中では異彩を放っており印象的だった。

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謹賀新年 [Note]

実質的には平成最後の年が明けてから1週間。

特に何をすることもなく、バーゲンで服を何着か買ったくらい。映画は見たいものがなく、TVは元から観るものがないけれど、NHKのEテレ(だったと思う)で再放送されていた「カズオ・イシグロ文学白熱教室」は面白かった。
なぜ、小説を書くのか?『自分の心にある情緒、感情をフィクションやメタファーを通じて世に出すことで、読者の共感を得ることは小説ならではである』といった趣旨の事を言っていました。小説は娯楽のために読むもので、「小説を読むなんて時間の無駄」と公言して憚らない御人もいらっしゃいます。確かに、仕事という着眼点では小説を読むことはあまり意味がないのかもしれないけれど、人生が一人の人間として感情的にも理性的にも高みを目指す営みであるならば、自分がどのような人間であり、何を知り、感じ、何を知らず、感じ得ないかを理解することは避けては通れない道でしょう。小説を読むという事はまさにそのような営為ではないかと、カズオ・イシグロの発言を聴きながら思った次第。

さて、今年は人生で〇回目(僕は人事の仕事をやっているけれど、その視点で言えば「書類選考で落とす」レベルの回数です・・・恥ずかしながら)の転職が控えている。
毎回、最後の転職にしようと口にはしつつも、心の底では「いい話があれば」と思っていたのは否定できないけれど、今回は正真正銘最後になるだろうし、最後にしなければならない。仕事で成果を出すことはもちろんだが、勤め人としてどこまで上がりきれるかが勝負になる。
ただ、僕を呼んでくれた人の話だと職場はとってもホワイトらしく定時上がりが基本だとか。それならば、自分の時間も十分に持てそうなので、ここ数年我慢してきたあれやこれやも出来るかもしれない。あれやこれやが何か?は、このブログを見て頂ければ自ずと明らかになる、はずである。

ということで1月は現職会社に半月ほど最後のご奉公をした後は、2週間強の休みに入る。これだけまとまった休みは20代に最初の転職をして1ヶ月弱の有休消化をして以来だ。海外に行きたかったけれど、諸々あって国内を数カ所ウロウロする程度になりそう。年末から飲み会続きも手伝って、体重がニューヨーク証券取引所同様に史上最高値圏を推移しているので、断酒とダイエットに努めたいと思う今日このごろ。

ということで、今年もよろしくお願いします。

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「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017) [Movie]

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原題:Star Wars : The Last Jedi
監督・脚本:ライアン・ジョンソン
出演:マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、アダム・ドライバー、ディジー・リドリー

賛否両論あるようですね。
懐古趣味全開だった前作の「フォースの覚醒」と比べ、古くからのスター・ウォーズの香りがしないところをどう評価するかにかかっていると思います。

面白くないかといえば面白い。でも長過ぎるというのが正直な感想です。
レイとカイロ・レンが劇中何度もフォースで交信をしますが、同じような話を繰り返すばかりで深まりが出てこない。ドラマの軸にいる”最後のジェダイ”=ルーク・スカイウォーカーの挫折と苦悩にしても深まりが無いので、物語が映画を引っ張る力が弱い。ファーストオーダーを率いるスノークは悪役としての面白さがなく、それと対峙するレイの信念も見えないので「ジェダイの復讐」(とあえて書く)でルークと皇帝が対峙した時のような緊張感は皆無でした。
ただ、クライマックスのルークとカイロ・レンの闘いは天晴れで、ルークの最期をあのような形にしたのは見事だったと思います。あのシーンはもう一度観たいのですが、そこに至るまでの時間を考えると劇場に向かう足が止まってしまうかな・・・と。

監督、脚本を担当したライアン・ジョンソンはスター・ウォーズの世界をスカイウォーカー一家の物語から誰もが主役になれる世界へとモードチェンジしたかったのでしょう。群像劇仕立てになった分、サイドストーリーがいくつか走っていて、そちらは面白かったと思います。女性将軍や提督に「育てられる」ポー・ダメロンは面白かったですし、冒頭でもラストでも身を挺して仲間を守るのは女性ばかりという点は現代的だなと思いました。

従来のスター・ウォーズは本作で終わりでしょう。
次回作こそ真価が問われるんじゃないかな?ディズニーのスター・ウォーズ。

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DAVID SANBORN NEW QUINTET featuring WYCLIFFE GORDON, BEN WILLIAMS, ANDY EZRIN & BILLY KILSON [David Sanborn]

昨年は体調不良で泣く泣くスルーした年末恒例のデイヴィッド・サンボーンのライブ。
今年は9月のブルーノートジャズフェスティバルに登場するはずが、まさかのイベント中止で今年もサンボーンを拝めないのか?!と思っていたら、ちゃんと年末にやって来てくれました。良かったよかった。

しかし、2年前に出たアルバム「Time and the River」や最近のライブをYoutubeで観ると、年齢による衰えを感じていただけに、少しばかり心配な気持ちでブルーノートに足を運ぶ。
僕が見たのは最終日(12月9日)の1stステージ。セットリストはブルーノートのオフィシャルページにアップされていたものをコピペしていますが、同じだったと思う。

1.TUMBLEWEED
2.HALF MOON LANE
3.MAPUTO
4.NIGHT JESSAMINE
5.SOFIA
6.SPANISH JOINT
7.ON THE SPOT
En.THE DREAM

1曲目、2曲目は没後10年になるテナーサックスプレイヤーでサンボーンとも親しかったマイケル・ブレッカーのナンバー。かなりジャジーな展開だけど、今回の新クインテットはこの路線なんだなと合点がいく。サンボーンバンド初?のギターレスになり、トロンボーン(ワイクリフ・ゴードン)が入ったことで2ホーンになったことで、サンボーンが吹きっぱなしではなく「ノリとツッコミ」の相手が出来てサンボーンのプレイも若返った感じだし、展開の自由度も増した。ドラム、ベースは正確無比なリズムを刻み、キーボードも破綻のない演奏。

所謂、サンボーン印の演奏は5曲目のSOFIAくらい。とてもメロウで艶っぽい音色に聞き惚れた。ライブでお馴染みのMAPUTOやTHE DREAMも換骨奪胎で原型が残っていない感じだけど、それでもやはりいいな、と。

ということで、まだまだ僕たちに見せていない引き出しがあることを今回のライブで確認できたのは何よりの収穫。来年の来日が待ち遠しいけど、同じクインテットで来るのかな?楽しみにしております。


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「ユニクロ帝国の光と影」/横田増生 著 [Book]


ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

  • 作者: 横田 増生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/12/04
  • メディア: 文庫



著者の近刊「ユニクロ潜入一年」がいま一つだったのですが、こちらは面白いのではないかと思い手に取りました。こちらは良く調べて書かれたルポルタージュと思います。

特に柳井社長の青年時代の話が興味深い。
ひと言でいえば、地方の金持ちのお坊ちゃん。頭はいいけれど、今見られるようなギラギラの上昇志向や野心はない。人並みに人生に悩みながら、大学生時代には親の金(当時で200万円!)で世界一周をしたり、大学卒業後もブラブラしたりというモラトリアム期間を贅沢に過ごしている。
家業のための修行としていやいや就職したジャスコ系のスーパーもすぐに辞めている。同期入社した友人が語るところによれば『渥美俊一先生の本なんかに書いてあったアメリカの最先端の流通業界に比べると、ジャスコはまだまだ遅れていると思ってがっかりしたんだと思う。』(文庫版156ページ)

この辺りはこぢんまりと決まった道を往くことを潔しとしない柳井社長の気風が感じられるようにも感じますが、果たしてどうだったんでしょうか?その後、ユニクロの前身となる父の会社=小郡商事に入り商売の面白さにのめり込んでいき、今の柳井社長像が作られていく訳ですが、独立独歩の気風は小郡商事が衣料品の業界では数少ない買い取り式の商売を貫いていたことでさらに強まっていったのでしょう。卸の都合ではなく小売店が主導権をとるというスタイルは、現在のユニクロのビジネスモデルに直結もしています。

商取引の慣行を覆しながら、規模だけで言えば日本の衣料品業界のトップに上り詰めた柳井社長に対して著者は懐疑的な目を向け続けます。ユニクロの持つ歪み=現場社員や協力工場に対する過剰な要求は、強者が弱者を搾取するかの如くであり、現代のビジネスモデルとしては時代遅れでしょう。
これからのユニクロがどうなっていくのか?柳井社長の一代記を通して、今後のユニクロの存続について興味が深くなる一冊でした。

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「ユニクロ潜入一年」/横田増生 著 [Book]


ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年

  • 作者: 横田 増生
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/10/27
  • メディア: 単行本



話題となった「ユニクロ帝国の光と影」の続編?といっていいのでしょうか?
僕は「ユニクロ帝国~」を読んでいないのですが、仕事の絡みでこのあたりのネタを仕入れておきたいと思い、新刊の本書を手に取った次第。

ユニクロに限らず、小売業や外食、宿泊業といった分野の労働環境が決して恵まれていないことは公知の事実でしょう。この本でも「感謝祭」と呼ばれるユニクロ最大の書き入れ時や週末の繁忙期の殺人的な忙しさを取り上げて、「奴隷の仕事だよ」というある社員の発言なども取り上げながら、過酷な労働環境を取り上げるばかり。それは一面の事実でしょう。閉店後、翌日のオープンに向けて店内を整理し、陳列を整え直す作業は繁忙時期には深夜0時を回るそうです。翌朝は7時30分から開店準備となれば、休む間もなしでしょうし、そんな生活が早々続くわけがないと思います。
しかし、本書では平日や閑散期の仕事ぶりには触れられておらず、働き手の1週間や1ヶ月の労働密度の観点から見たルポルタージュになっていない点が”潜入”というには少々お粗末と言わざるを得ません。ただ、閑散期には入りたくてもシフトに入れない人がいて困っているという話には、派遣やアルバイトといった人件費の変動費化という、日本企業がバブル以降に作り上げた労働慣行の歪みが出ていることを感じさせます。しかし、これにしてもユニクロを稼ぎ口としてうまく使いこなしている人物もいるはずで、視点が一方的と感じます。

ユニクロが、単に割り当てられた時間をこなして働くというマインドの従業員を大切にしないというのは、柳井社長の数々の発言からも明らかです。そういった従業員も含めて社会の公器として適正利益を稼ぐというのが法人の存在価値でしょうが、柳井社長にはそういう考え方は全くないでしょう。あくまで会社の売り上げと利益を上げることが、そこで働く人々の幸福につながるとおそらく信じて疑っていない。
その批判も大切とは思いますが、サービス業の生産性を高めるために何が足りていないのか?という構造的な問題、すなわち「過剰なサービスとおもてなしを安く(もしくは無料で)求める消費者」などに触れない限り、本当の意味で労働問題に斬り込んだとは言えないのではないかと思います。

ユニクロにとっては面白くない本でしょうし、世間の好奇心を満たすにはいいのかもしれませんが、潜入取材としては残念な内容でした。

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「純米酒を極める」/上原 浩 著 [Book]


純米酒を極める (知恵の森文庫)

純米酒を極める (知恵の森文庫)

  • 作者: 上原 浩
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/01/12
  • メディア: 文庫



「酒は純米。燗ならなお良し」

日本酒の生産量が減りはじめて久しい。
昭和50年頃をピークに全盛期の3分の1程度に減っているというから、衰退産業の代表格といってもいいだろう。日本食の海外での知名度が上がるにつれ、海外の消費量、輸出は伸びているようだがそれでもなお日本酒の生産減少に歯止めがかかったという話は無いようだ。それもそのはず、日本酒の生産量に占める輸出の割合はたったの3%強しかない。未だに日本酒は日本人しか飲まない酒なのである。そんな酒がなぜ日本人にも見放されているのか?
この本はその答えを明快に出している。アルコール添加の醸造酒が問題の根源である、と。

戦中戦後のコメ不足時代に、少ないコメでたくさんの酒を造るために、醪にアルコールを添加する「アル添」と呼ばれる手法が普及した。窮余の策であったのだが、手間要らずでたくさんの酒ができることから大手を中心にコメ不足が解消した後も「アル添」の酒造りは続いた。

著者はそうした現状に嘆きつつも、地方の蔵のいくつかが良心的な酒造りをしていることに希望を託している。その希望は徐々に拡がりを見せているとは思う。その証拠に純米酒や吟醸酒といった銘柄酒については生産量が徐々に伸びつつある。日本酒がビールのような「とりあえず」の消費物から本当の意味での嗜好品になってしまったという事なのかもしれないが、しっかりとした造りの酒が愛されるようになれば、再び日本酒は見直されていくだろう。

日本酒の世界は杜氏という職人が酒造りの鍵を握っている。
一生かけて究極の酒造りを追いかけるようなストイックな世界な訳だが、そんな世界も変わろうとしている。日本酒の世界でいま最も有名な銘柄は「獺祭」だろう。「獺祭」を造る旭酒造は杜氏制度を廃止し、しかも四季醸造という日本酒の世界では珍しい取り組みで業界に旋風を巻き起こした。
さらにAIを取り入れる蔵元も早晩登場するだろう。一生を美味い日本酒造りに捧げたと言っても過言ではない著者は鬼籍に入ってしまったが、これからの業界を見てどう思うだろうか?と少し考えた。

日本酒の世界の深さと問題の根深さを実感できる1冊。日本酒に少し興味があるならば読むことをお勧めします。

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「天国と地獄」(1963年) [Movie]


天国と地獄 [Blu-ray]

天国と地獄 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: Blu-ray



監督:黒澤明
出演:三船敏郎、仲代達也、山崎努、三橋達也、香川京子

午前10時の映画祭で鑑賞。恥ずかしながら初見である。

前半の舞台劇のような子供の誘拐を巡る駆け引き、ドラマと中盤の身代金強奪のサスペンス、そして犯人逮捕に到る捜査ドラマの3つのパートからなるが、どのパートも完成度が高い。
自分の子供ではなく、他人(自分お抱えの運転手)の子供が人質に取られるという設定が面白く(これは原作が偉いんでしょうが)、大企業の重役(三船敏郎)が自らの保身のためにプロクシファイトを画策している資金を身代金に使わなければならないという葛藤が面白い。
有名な中盤の特急列車を使った身代金強奪は鮮やか。不敵な犯人と翻弄される捜査陣の対比も見事で、これが終盤の捜査陣の意地に繋がり、犯人逮捕の観客のカタルシスを高めている。

ラストの接見シーンは個人的には不要に思うし、やや教条めいていて好きになれなかった。ただ、製作当時の貧しい日本を思えば、このような犯人になる可能性のある人間がゴマンといた訳で、映画が時代性を得るためには必要とも言えるだろう。

黒澤明の代表作の一つに挙げられて然るべきの快作ですね。

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「ブレードランナー2049」(2017年) [Movie]

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原題:Blade Runner 2049
監督:ドゥニ・ヴィルヌーブ
出演:ライアン・ゴスリング、ハリソン・フォード、ジャレッド・レト、アナ・デ・アルマス

待望の「ブレードランナー」続篇。

前作は1982年に公開。当時はさほど話題にならず本国でも日本でもヒットはしなかった。
僕は劇場に足を運んで鑑賞したが、酸性雨が降り続けるロサンジェルスの街、そこを舞台に描かれる人造人間=レプリカントと人間とが生きることに葛藤するドラマに惹きつけられた。
その後、世の中にレンタルビデオが普及し始めると徐々に再評価され、「ブレードランナー」は不朽のSF作品として世界的に認知されていく。まさに時代を先取りした映画だった。

「ブレードランナー2049」は前作の30年後が舞台。
前作のラストでデッカード(ハリソン・フォード)とレイチェル(ショーン・ヤング)が逃走してからの後日譚が物語の鍵となっていく。

30年経ってもなお、人間とレプリカントの間には埋めがたい溝があり、レプリカントは差別の対象となっている。新型レプリカントで人間にとって危険な旧型レプリカントを「解任」する役割を担うブレードランナー・K(ライアン・ゴスリング)の日常は殺伐としており、AIホログラフィーのジョイ(アナ・デ・アルマス)が唯一の心の拠り所になっている。ある捜査で女性のレプリカントの遺骨が発見されるが、そのレプリカントの死因が出産によるものであった。レプリカントは人間のみが製造できるはずが、出産するということは自己繁殖が出来ることを示唆する。そうなれば人間とレプリカントの関係性は大きく変わらざるを得なくなる。人間、レプリカントがこの事実と謎を巡る抗争を始めていく・・・

都市デザインは前作の意匠を踏襲しているが、前作に見られた人種が混淆した猥雑さはなく、印象に残るのはホログラフィーを使った広告や、デッカードが住むラス・ヴェガスの廃墟だ。
前作では映像技術的に不可能だったホログラフィーの演出が映画の肝となっており、主人公のKが恋人のように接するAIのジョイが出てくるシークエンスは、生命とは何かというテーマに新たな視点を与えており成功している。前作同様、記憶というものの危うさにも正面から取り組んでおり、Kにとって最も大切な少年時の記憶が誰のものだったかというのが物語の鍵となる点も、よく考えられている。

前作のエッセンスを活かしながら単なる続篇に陥らずに新たな地平を拓いている点で優れた作品だと思う。163分の長尺でも飽きさせない点も見事だが、この尺が必要だったかどうかはやや疑問だ。物語を進めるうえで必ずしも必要ではないカットも多く、荘重と感じる反面で鈍重な印象がぬぐえない。

前作では生命とは何か?を問いかけてきながらも、生きることに前向きな作品であった。本作も同じく生命とは何か?を扱ってはいるが、生きることの哀しさが前面に立ちあがってくる。
前作で最も印象的なロイ・バッティの死と対比されるラストが用意されているが、そこで感じるのは生きる渇望ではなく死のやすらぎなのだ。派手なアクションシーンがない点は前作も本作も大差はないが、映画の躍動力において前作とは大きな開きがある。それがこのラストの触感の違いに凝縮されているように感じてならない。

もう一度観たいと思う。今度はIMAXで観ようかな。

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「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年) [Movie]


ウルフ・オブ・ウォールストリート [Blu-ray]

ウルフ・オブ・ウォールストリート [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
  • メディア: Blu-ray



原題:The Wolf of Wall Street
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マーゴット・ロビー、カイル・チャンドラー

まずはレオナルド・ディカプリオの催眠力のある演技が素晴らしい。これで主演男優賞を獲っていても悪くなかったと思うほどだ。脇を固める俳優陣も総じて素晴らしく一級のコメディドラマになっている。

酒、ドラッグ、女、そして金。この映画で価値があるのはこの4つ。
この魔物に魅入られた男どもの乱痴気騒ぎをひたすら追いかける作品なのだが、監督のマーティン・スコセッシは齢70~71(撮影当時)を感じさせない弾けっぷりで観る者を驚かせ、笑わせ時には眉を顰めさせてくれる。

大抵の(すべての?)金融系のブローカーはこういう生活を夢見ているんだろうし、一度くらいこんな乱痴気騒ぎの中に身を置いてみたいと僕なんかは思うんだけど、これを毎日やる覚悟はない。人生の享楽を貪り尽くさんとするこの映画の登場人物たちの姿は、生き抜くことの辛さから目を逸らそうとする弱さの顕れでもあるなどとしたり顔で言えるのは、彼らの狂騒がいつまでも続くことがないことを観る側は分かっているからだ。彼らはこの日々が永遠に続くと願い、信じている。そこにすがろうとする姿の滑稽さを観客は笑うのだが、その笑いは自分にも返ってくる。

人生とは喜劇なり。この映画は奇矯な例を引きながらも、普遍性のある人生ドラマとなり得ている。

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