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「楽園のカンヴァス」/原田マハ 著 [Book]


楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)




「どんどん読み進めたいけれど、読むのが惜しくなるような本なんです」

という、20代の女性の大絶賛の辞に心を動かされて読んでみた。

原田マハの名前は知っていたのは、本作が刊行された当時話題になっていたからだと思うが、本の内容については皆目知らず。
書店で裏表紙のあらすじを読むと、アンリ・ルソーの「夢」に似た作品「夢を見た」の真贋判定をミステリー仕立てにしているということで、これはなかなか面白そうと手に取ってみた。

著者は東京の森美術館の設立準備をしたこともあり、美術館の裏側についてはそれなりの知識を持っているためか、学芸員や監視員の仕事、新聞社主催の冠展覧会の仕掛け等々、現場の肌感覚が感じられてリアリティがある。
筋立ては面白いのだが、真贋判定の肝となる作中作の謎の古書の文体があまりにも平易に過ぎ興を削ぐ。主人公2人の登場の仕方は巻き込まれ型で面白いのだが、それぞれの造型が深まらず、彼らがなぜアンリ・ルソーに惹かれたのかについてはほぼ自明のこととして脇に置かれているため、物語と主人公の絡み付きが弱いと感じた。ミステリーとしても、伏線の張り方が唐突で、回収の仕方もいま一つキマっておらずやや消化不良。

とはいえ、つまらない本とは思わない。
古書を通じて、ルソーやピカソが情熱を燃やしていた時代を感じられるのはフィクションとはいえ楽しい。過去を遡る事の楽しさ、その時代の人に思いを重ねることの楽しさ。美術鑑賞は作者の時代といまの私を繋ぐ行為でもあるならば、この本は美術鑑賞という行為をひとつの物語として提示したとも言えるとも思うからだ。

読みながらウディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」を思い出した。勧めてくれた彼女にはお礼として「ミッドナイト・イン・パリ」を薦めてみよう。

「春の嵐(ゲルトルート)」/ヘルマン・ヘッセ 著 [Book]


春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫)

春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫)




『自分の一生を外部から回顧してみると、特に幸福には見えない。しかし、迷いは多かったけれど、不幸だったとは、なおさらいえない。あまりに幸不幸をとやかく言うのは、結局まったく愚かしいことである。なぜなら、私の一生の最も不幸なときでも、それを捨ててしまうことは、すべての楽しかった時を捨てるよりも、つらく思われるのだから』

人生に対する諦念、洞察、愛着をこれほど端的に表現した作家はヘッセをおいて他に居ないだろうと思う。初読は高校時代だったか大学に入った頃だったか覚えていない。その頃は、片想いの同級生美少女に雪そりでいいところを見せようとしたが故に大きな事故に遭い、片足に障碍を持ってしまった主人公の孤独さ、その友人であるオペラ歌手のムオトの魅力的で悪魔的な傍若無人な振る舞いの双方に私自身の中に潜む闇を見て、得も言われない感動を感じ事だけは覚えている。
それから20数年以上たって、これからの人生よりも振り返る人生の方が明らかに多くなってしまったいま、先に紹介した冒頭の文章が何よりも心に残る。

本作はヘルマン・ヘッセが33歳の時に発表された作品。
両親との関係、異性との関係、友人との関係を余すところなく描きながら人生を俯瞰したこの作品を読むと、昔の人の早熟に驚くべきか、これが作家の資質というものなのかは分からないが、刊行後100年以上経った今も読み継がれるだけの普遍性を勝ち得るのも納得の作品。まさにクラシック

「スノーデン」(2016) [Movie]

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原題:Snowden
監督:オリバーストーン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、シャイーン・ウッドリー

スノーデン事件からまだ3年しか経っていないということを知ったのは映画の冒頭。
ずいぶん前のような気がしていましたが、そんな新しい題材を取り上げたオリバー・ストーン監督の鋭さは齢70とはいえまだまだ衰えていないようです。

アメリカの情報機関が、世界中のSNS携帯電話の通話などを監視しているという事実を暴露したエドワード・スノーデンの実話に基づく映画ですが、国がどのように監視していたのか?といった事件の全貌は脇に置かれ、アメリカの同時多発テロをきっかけに国を守るために軍人を志願したオタクであるスノーデンが、CIA、NSAの仕事を通じて、徐々に守るもの=国家に対して疑念を抱いていく過程を丹念に追っています。
主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットは、雰囲気がスノーデン本人に近いうえに、しゃべり方や声のトーンもかなり似せており、ラストに本人が登場してもあまり違和感を感じません。

基本的にはスノーデンのやったことに対して肯定的に描かれてはいますが、英雄に仕立て上げることはせず、映画は彼の行動の波紋を描くにとどめます。国からの追及についても比較的あっさりと描かれるだけで、あくまで主眼はスノーデンが告発に至るまでの心の動きに絞られているので、国家対個人の白熱する闘いを期待する向きには肩透かしかもしれません。

個人的にはスノーデンが軍人志願だった点が興味深かったです。
911のテロで衝撃を受けアメリカを守ろう、アメリカが好きだという純粋でまっすぐな感情で軍人になろうとするも、けがで挫折。たまたま天才的なITの知識とセンスを持っていたため、CIAやNSAで重宝されるわけですが、軍人になろうと思った時と同じ純粋でまっすぐな感情が自由という理念を守るための鬼子であるCIA、NSAの行いを受け容れられなかったというところは、これをアメリカの健全性と捉えるのか、ある種の病的な自由原理主義と考えるべきかは意見が分かれるでしょうね。

「泥棒成金」(1955) [Movie]





原題:To Catch a Thief
監督:アルフレッドヒッチコック
出演:ケーリー・グラント、グレース・ケリー

ケーリー・グラントとグレース・ケリーを愉しむ映画
モンテカルロの急峻で曲がりくねった道でコンパーチブルを飛ばす男勝りなケリーの美しさ、洒脱な振る舞いで男でも惚れるような二枚目のグラント。往年の映画の粋を随所に感じる。
加えて、夜のシーンのカメラの美しさは当時の映画としては特筆すべき。クライマックスになる屋根の上の追跡シーンでの屋根瓦の幾何学模様の美しさ。

さすがはヒッチコック。映像で語るシーン、台詞で魅せるシーンを上手に使い分ける演出で飽きません。カーチェイスの空撮シーンなど、CGで失われた映画的な絵と色気があります。

「ズーランダー」(2001年) [Movie]





原題:Zoolander
製作年:2001年
監督:ベン・スティラー
出演:ベン・スティラー、オーウェン・ウィルソン、クリスティン・テイラー、ウィル・フェレル

「オースティン・パワーズ」と同じような空気感。ベン・スティラー演じるズーランダーがトップモデルじゃなくて、勝手にトップモデルを気取っている二流モデルだったら面白かったような気がしますね。

カメオ出演の豪華な顔ぶれを見るだけでも価値があるかも。ベン・スティラーの人徳を感じました。

「世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅」(2010年) [Movie]





原題:Howt to make a book with Steidl
製作年:2010年
監督:ゲレオン・ベツェル、ヨルグ・アドルフ
出演:ゲルハルト・シュタイデル、ギュンター・グラス、カール・ラガーフェルド、ロバート・フランク、ジョエル・スタンフフェルド


2013年の劇場公開時に足を運んだのだが、疲れとビールとで不覚にも寝てしまい冒頭と後半しか覚えていない・・・ということで、レンタルして再見してみた。

シュタイデル社は世界的にも有名な本のデザイン、印刷、製本を一手に引き受ける出版社。社長のゲルハルト・シュタイデルのこだわりが多くの顧客を掴み、予約は数年先まで埋まるほどだという。

映画はジョン・スタンフェルド氏がドバイでiPhoneで撮影した写真の写真集作成過程を中心に描かれる。それ以外にもいくつかの製作が並行しているのだが、シュタイデル氏の知見の広さに驚かされる。これほどの知見があれば自分の意見を主張しそうなものだが、そこは職人として一線を引き、あくまで自らは依頼人のアイデアを形にするために最適な技法は何かを探求する、もしくはそのイメージを依頼人から引き出すための触媒の役割に徹している。超一流の人々が彼をパートナーとして欲する理由だろう。

デザインから印刷、製本に到るまですべてを一気通貫にやるからこそ出来るこだわり。これほどの贅沢が許される世界は限られているが、出版の文化を支える大切な役割を担っている。
思わず飾りたくなる、手に取ってみたくなる本。電子媒体が中心となった現代だからこそ、彼のようなこだわりが一層輝く。

「女のいない男たち」/村上春樹 著 [Book]


女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/10/07
  • メディア: 文庫




『ただそういう男たちの姿や心情を、どうしてもいくつかの異なった物語のかたちにパラフレーズし、敷衍してみたかったのだ。』 (まえがきより)

「女のいない男たち」と題されたこの短編小説に添えられた前書きで村上春樹はこう語っている。
なるほど、本書に収められた6篇の短編はいずれも妻や恋人または大事な女性を何らかの形で失った、もしくは手に入れられない男たちの物語になっている。

本書のきっかけとなった「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹らしい都会人の孤独を滲ませていてなかなか良かったですが、青春小説である「イエスタディ」には瑞々しさがなく、かつての村上春樹の青春小説とは似て非なるものになっていますし、「独立器官」、「シェエラザード」は逆に中年の男、女の恋にまつわる物語(後者は回想譚だけれど)ですが、登場人物の内側を抉るような鋭さがなく、平板な印象。

「木野」と題された一篇は、主人公が不可解な出来事に突然遭遇していく巻き込まれ型で村上春樹らしい世界観が面白い。ラストが尻切れトンボの感は否めないものの、想像力と表現力のバランスが美しく、村上春樹でなければ書けない世界だと思った。

ラストの「女のいない男たち」は、村上春樹が小説に取り掛かる前の構想を書いているかのように感じた。小説としては魅力はないが、元恋人がこの世を去ったことを知り、自分の内面に潜っていこうとする話で、これが核となって想像力が喚起され、別の小説がもう1本出来上がるのではないか?

村上春樹も67歳(本書が刊行された頃は65歳でしたかね?)になり、年齢による肉体、精神の変化と書くものとのバランスが変わってきているのかもしれません。かつてと同じものを書こうという気は作家にはさらさらないでしょうが、同じ(レベルの)ものを書けないという事実もまたある様に思われ、間もなく刊行される新作の長編がどのような内容なのかが気になります。
少なくとも長編としては前作に当たる「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」が、ある種の青春小説でありながら瑞々しさに決定的に欠けていたことを思うと、新作への期待も半ばですが、「木野」で見られた彼独特の世界の魅力はやはり抗しがたいものがあります。


今の村上春樹を知るにはいい一冊なのかも?

「人間の生き方、ものの考え方」/福田恒存 著(福田逸・国民文化研究会編) [Book]


人間の生き方、ものの考え方 学生たちへの特別講義

人間の生き方、ものの考え方 学生たちへの特別講義




劇作家として、思想家として戦後の日本を代表する人物であった福田恒存が昭和37年~55年にかけて学生に向けて行った特別講義の内容をまとめた本。
福田恒存の考え方の根っこの部分、すなわち「人間は過去、歴史に対して謙虚であることを忘れてはならない」という保守思想の根本が分かりやすく提示されていて、さながら入門書のような仕上がりになっている。

最近、自らの正義を振りかざし、自分たちの価値観と違うものを断罪する風潮が強くなっていると思うけれど、福田恒存が「人間は悪なしでは生きられないという問題をいつも見つめている必要がある」ということを、多くの人が忘れているのではないかと思う。

これはと思う箇所を抜き書きしようかと思いましたが、あまりにも多すぎるのでやめておきます。言葉について、正義について、タブーについて等々平易な言葉でこれほどまでに透徹した深い洞察が書かれた本には滅多にお目にかかる事は無い。何度も何度も読むべき本と思う。それほど深く、また基本となる事が書かれている。本当におすすめの一冊。

SONGS スティング [Television]

齢をとったな~ というのが最初の感想。63歳だそうで、そりゃ齢もとりますね。

NHKの「SONGS」にスティングが出るというなら、やはり見ない訳にはいきません。

スティングといえばやはりポリス時代のイメージが強いですけど、ソロになってからもロックに留まらない広角性を感じる独特のセンスで、高い音楽性とセールス面での成功を勝ち取った数少ないアーティストでした。特に90年代~00年代に入るころまでの創造性は凄かったと思います。
でも、2003年に発表されたアルバム"Sacred Love"を発売当時に聴いた時、それまでのスティングからは感じなかった「行き詰まり」を正直なところ感じました。
個人的にはロックに興味を持てなくなったのかと思っていたら、スランプに入りかけていたんですね。

"Sacred Love"を最後に、いわゆるロックからは遠ざかっていたのが、当時の嗜好以上に「曲が書けない」という深刻な壁にぶつかっていたというのは、今日の番組で初めて知りました。
どんな創作者でも、大なり小なりスランプの時期はあるもので、ピークが高ければ高いほど、その逆もまた深いということなのでしょう。

13年の歳月を経てロックに帰還したスティングですが、相変わらず生真面目というか正直な人なんだなと思いました。色々と率直に語っていましたが、印象的だったのは「何千人という人の前で演奏していると、そのうちの一人が政治家になるんじゃないかと想像しながら演奏するんだ。その人が何かになって、僕のメッセージを思い出して世の中を変えてくれたら、音楽が世界を変えた事になる」と言っていたこと。

いや~青い!

ロックミュージシャンに必要なのは、世界に絶望しながらも青臭いまでに人を信じるという姿勢ですね。
ニューアルバム「ニューヨーク9番街57丁目」も素晴らしい仕上がりでしたし、これからの活躍に期待します。

当ブログでのディスク評:「ニューヨーク9番街57丁目」


ニューヨーク9番街57丁目

ニューヨーク9番街57丁目

  • アーティスト: スティング,ヴィニー・カリウタ,ジョシュ・フリーズ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2016/11/11
  • メディア: CD


「ニューヨーク眺めのいい部屋売ります」(2014) [Movie]





「ニューヨーク眺めのいい部屋売ります」

原題:5 flights up
製作年:2014年
監督:リチャード・ロンクレイン
主演:モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン

ニューヨークという街が舞台であればこその映画

眺望は抜群だが、階段しかないブルックリンのアパートの5階に住む黒人の画家と白人の教師のおしどり夫婦。寄る年波には抗えず、毎日階段を上り下りするのに一苦労。ペットの犬も年老いて階段を上るのが辛くなった様子に、夫婦は40年間住んだ家を出ることを決意する。しかし、思い出が刻まれた家を後にするのはどこか忍びなく2人は引っ掛かりを感じながらも、自分たちの家を少しでも高く売ることを目論みながら、転居先の家を探していく。

テロまがいの事件が起きて、家が高く売れるの売れないのとちょっとした騒動が起こるあたりは、9.11以降のニューヨークを舞台にしている故だろうけれど、深刻さは皆無。
70歳手前(と思しき)主人公の2人が黒人と白人のカップルというのもニューヨークらしいけれど、この年代では偏見に苦労したのかと思いきや、その辺りの描写もあっさりしたもの。

ということで、何でもニューヨークであれば許されると言わんばかりの仕上がりですが、隅から隅まで予定調和で、安心して観ていられるのがいいところ。
主演の2人は余裕の演技だし、ダイアン・キートンはアニー・ホールが歳をとったらこうなりました、といった感じでなかなかお洒落。モーガン・フリーマンはあまり画家には見えないのですが、人生を達観したような雰囲気はこの映画には合っていました。

基本的に品のいい映画。誰でも安心して観られますし、たまにはこういう小品もいいなと思わせる作品です。

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